絹川友梨 インプロヴァイザー


日本で一番リスキーな演劇?
「即興でなんてできっこない!」とお考えの皆さまへ、
 
なんと恐ろしいことでしょう!
今年の演劇大学連盟は、
恐ろしくリスキーな演目に挑戦することになりました。
それは「即興で演劇を創る」演劇です。
 
日本では一般的に「演劇」というと
1)台本がある
2)演出家がいる
3)ストーリーやセリフ
動きやダンドリが決まっている
が「当たり前」ではないでしょうか。
 
しかし今回は真逆です。
1)台本はない
2)演出家はいない
3)ストーリーやセリフ
動きやダンドリは決まっていない
ということになります。
 
つまり俳優たちは
みなさんがご覧になる舞台の
「今、ここ」で、
直観を信じて
セリフを考え、しゃべり、動き、
相手から来るセリフに答え、動き、
俳優仲間とストーリーをつむいでいく
ということになり
高い「即興性」が求められます。
これは俳優にとっても、プロデューサーにとっても、
もっとも「怖いこと」かもしれません。
 
そしてこんな声も聞こえてきます。
「そんなことできっこない!」
「即興でいいお芝居なんて作れるはずがない」
「俳優の練習風景(エクササイズ)を見せないでよね〜」
「クオリティはどうなんだ?」
これらは「即興で劇を創る」ことに対して
しばしば聞かれれるネガティブな声です。
 
そういえば最近は
ロボットが演劇をする時代です。
演出家の指示に、嫌な顔せずに従い、
一寸の違いもなく、いつでも同じ反応をすることができる
自分の主張はまったくしない。コマ。
そういう俳優が求められているのかもしれません。
(この俳優のコマ化は
またどこかで議論したい話ですが、
ここではちょっとずれるので棚に置いておきましょう。)
 
いずれにせよ世の中は、演劇に対して、
「準備して練習したものこそ一番の価値がある」
かのようです。
「その場で直観的に生まれたもの」に対して
「そんなもん認めん!」って感じです。
 
しかし このような「即興」に対するネガティブな思い込みを
払拭する出来事は、今までの芸術のなかにたくさん存在します。
(日常にもたくさん転がっています。)
 
そもそも演劇は(大昔ですが)、
台本もありませんでしたし、
演出もいませんでした。
演者と観客が、
即興的に、
祈りや喜びや悲しみを分かち合うために
わしゃわしゃ行われていました。
 
演劇が宗教普及に利用されていた時代でさえ、
俳優たちは即興で劇をつくり、
大衆を楽しませてきました。
(そこから沢山の新しい劇や劇団が生まれました)
 
日本の伝統芸能「能」も
演者と演奏家が織り成す
即興の舞台だと言われています。
 
演劇だけではありません。
ジャズプレーヤーのマイルス・デイビスは
仲間が間違えたコードに即興で演奏をして
「So What?」という名曲を産み出しました。
 
映画監督のマイク・リーは
俳優に即興で演技をさせて、その生々しく
新鮮な瞬間から映画「秘密と嘘」を作り、
カンヌ映画祭の最高賞パームドールを受賞しました。
 
そういえば、
キング牧師の有名な演説のフレーズ
「I have a Dream 」も即興でした。
 
人種差別をなくし、人種の協和を呼びかけ
世の中を変える影響力をもったこの言葉は、
用意された台本には書かれておらず、
キング牧師の口から「その場」で出たと言われています。
もし彼が「台本通りの言葉」だけを話していたら、
今のアメリカは違った姿になっていたかもしれません。
 
ちょっと話が飛びすぎてしまったかな、、。
 
いわば今回の演目「シアタースポーツ™」は
「即興性」を重視する点において
もっとも演劇の原点に近いスピリットをもった
演目と言えるのかもしれません。
 
さて、それでも
「即興で演劇なんてできっこない」と思われるみなさんへ、
本番に向けて、我々はこんな練習をしています。
1)仲間にしっかり表現を届けること
2)仲間の表現をしっかり受け取ること
3)想定外のアイデアを否定せず、尊重し、好奇心を持つこと
4)失敗を恐れず、むしろ楽しむこと
 
これらは「いつでもどこでも即興ができるため」の筋トレです。
(野球選手が、どんな球でも取れるように練習するのと似ています)
 
そう我々は、指示されなければ動けない思考停止の俳優ではなく、
自らが発想し創作する、主体的な者になるための
稽古をしています。
 
さぁ前人未到の舞台が始まります。
どんな舞台になるか、まだ誰にも分かりません。
どうぞ、「今ここで」生まれる
二度と繰り返すことのできない奇跡の舞台を観にきてください。
日本で一番リスキーな演劇なのですから。
 
絹川友梨